ソロアルバム


@「Consort songs」
 
Connor初のソロアルバムです。あれほどまでに輝かしい経歴でありながら、Connorがセントポール時代にレコーディングしたソロアルバムはわずか2枚。かなりの枚数のソロアルバムを出しているAled JonesやAnthony Wayに比べると、とても少なく思えます。
 しかも特徴的なのは、前述の2人はいかにもボーイソプラノといった曲を集めたアルバムが多いことに対して、Connorのソロアルバムはそういったメジャーな曲ではなく、古楽の曲ばかり。でも、その古楽の単調な感じの曲調が、Connorの熟達した歌唱テクニックを披露するのにピタリと合っているのです。まあ、個人的な好みを言えば、いかにもボーイソプラノといった曲も、もう少し歌ってほしかったんですけどね。

 さて、この「Consort Songs」は、“Amsterdam Loeki Stardust Quartet”という古楽のリコーダー合奏団、そしてルネサンス時代のリュート、ギターを演奏するDavid Millerが伴奏を担当しています。instrumentalのみの演奏も、前18曲中7曲含まれています。
 リコーダーの伴奏曲というのは初めて聴いたのですが、リコーダーの細く真っ直ぐな音と、Connorの硬質で明るく伸びやかな声がこれまたピタリと合っているのです。また、曲の中には鳥の鳴き声を歌う場面も出てくるのですが、実にConnorの声質に合っていて、よく考えられているなーと思います。
 録音は1996年2月、オランダでとなっています。Connorのソロ曲のみを紹介します。

     
1.Sorrow, come         11.This merry pleasant Spring
     3.Wretched Albius        12.Ye mortal wights
     4.With lilies white       15.Like as the day
     6.Complain with tears      16.How can the tree
     8.In a merry May morn      18.Four-note Pavan
     9.When May is in his prime


 Connorの歌唱テクニックが際立っているのは、やはり第11曲目の「This merry pleasant Spring」でしょう。様々な鳥の鳴き声を、Connorは愛らしく歌っています。また、“delivers”“so sweet”の歌詞の部分のh唱法、“quivers”のトリルは圧巻です。本当に小鳥が可愛らしくさえずっている様子が想像できます。特に“so sweet”の歌詞は2回続くのですが、徐々に音が上がりConnorの声も輝きを増していくのが聴きどころで、あまりの美しさにゾクッとするほどです(笑)。
 次のおススメは、第9曲目の「When May is in his prime」です。このアルバムには春が来たことを喜ぶ曲が数曲ありますが、この曲も喜びに満ち溢れ、Connorの輝く声が生き生きと春の野山を駆け回っているような、そんなイメージです。特に“Rejoice”の歌詞の部分で、“Re”から“joice”への音の上がり方、適度なアクセントのつけ方がさすがConnorといった感じです。
 第8曲目の「In a merry May morn」ではカッコーの鳴き声を歌っており、Connorの透明感のある柔らかな声が可愛らしいです。
 他の曲は短調でゆったりとした曲が多いですが、Connorは落ち着きのある真っ直ぐな高音を、表情豊かに駆使したっぷりと聞かせています。

 それから、CDのジャケットにはQuartetの4人に囲まれて、Connorが真ん中に写っています。落ち着き払った熟練した歌声からは想像できないような(?)、メガネがかわいいあどけない少年といった感じです。bacではなぜか笑った写真がないので、貴重な笑顔の写真かもしれません(笑)。
 Connorのアルバムの中では、「A Quiet Conscience」が最も絶賛されているようですが、私はこの「Consort Songs」の歌唱テクニックも、かなりのレベルであると思っています。QCを持っていても、このアルバムは持っていないという方も多いと思います。ぜひ、このアルバムも聴いてみることをおススメします!!


A「A Quiet Conscience」
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なぜかこのCDだけは録音年月日が記されていないのですが、おそらく1996年の春から夏にかけてと思われます。
 このアルバムのレコーディング中に、「イギリスにすごい少年歌手がいる」といううわさを、後のbacの仕掛け人となった大庭氏が耳にし、レコーディングを聴きに行って感銘を受け、bacを結成したというのは有名なエピソードです。上記紹介の「Consort Songs」の録音が1996年2月、bac結成が1996年10月なので、その間に録音されたものと思います。発売は1998年と録音からだいぶ日が経っているようですが…。

このアルバム「A Quiet Conscience」は、サブタイトルに“Songs from the 17th Century”とあるように、17世紀の歌を集めたものです。伴奏はJohn Scott氏がオルガン、David Miller氏がリュートとテオルボ(低音のバロック・リュート)を担当しています。
 「Quiet」は「静かな、平穏な」という意味、「Conscience」は「良心、道義心」といった意味です。「A Quiet Conscience」をどう上手く訳したらいいのかはわかりませんが、全曲を通してシンプルな伴奏と静かに単調に進んでいく曲調から、何となく意図したいことがわかる気がします。
 ブックレットには、曲についてかなり詳しく書かれているようですが、それを訳す気力と労力が現在ありませんので(苦笑)、今回は曲を聴いた感想のみを書きたいと思います。曲の解説については、できればいつか別の機会に書けたらいいなぁと思います。

      
1.Miserere, my maker(Anon)
      2.Author of light(T.Campion)
      3.Never weather-beaten sail(T.Campion)
      5.O Lord, thy faithfulness and praise(J.Bartlet)
      6.If I could shut the gate(J.Danyel)
      7.Wilt thou forgive the sin where I begun?(J.Hilton)
      10.Upon a Quiet Conscience(J.Playford)
      11.A Hymn to God the Father(P.Humfrey)
      12.Blest be those sweet regions(J.Clarke)
      13.O God forever blest(J.Church)
      14.A Morning Hymn(H.Purcell)
      16.An Evening Hymn(J.Clarke)
      17.King of all joys(J.Church)
      18.A Hymn on Divine Music(W.Croft)
      19.An Evening Hymn(H.Purcell)


 全19曲ですが、とんでいる番号はオルガンとリュートのソロ曲です。それぞれ2曲ずつ収録されています。
 先ほども書きましたが、全曲を通してわりと穏やかで単調なメロディーが多く、サラッと聴いただけではみんな同じような曲に聞こえてしまうかもしれません。しかし、このような単調な曲調ほど、歌い手の真価が問われると言っていいでしょう。単調な曲はテンポもゆっくりで、歌詞を伸ばして歌う部分が多く、声そのものを聞かせなければいけないので、ごまかしがききません。くるくると回転するように音程が動く、テンポのいい曲の方が多少のごまかしはききますし(笑)、歌いやすいのです。
 「Consort Songs」でも書きましたが、このような古楽の曲はConnorの熟達した歌唱力を発揮するのにとても合っていて、Connorの抜擢は素晴らしい選択だと思います。

 曲は、前半は本当に単調に穏やかに進んでいきます。第12曲目くらいから徐々に変化が現れ、テンポが上がり、曲調も少し明るめになっています。全部は紹介しきれないので、特におススメの曲のみ書きたいと思います。

 まずは第12曲目。先ほども書きましたが、この曲から変化が現れるのが特徴です。だんだんと高音も出てくるようになっています。
 まず出だしの“musick”のロングトーンでのクレッシェンドが、さすがConnorといった感じです。暗闇の中の一差しの光が、だんだんと暗闇を消し去っていくような力強さがあります。かなりの高音でしかも声量は弱いのに、安定した声を保っているのもさすがです。また、曲中の“bright”“never”の歌詞の部分の、適度に力を込めた高音もきれいです。
 
 次に第13曲目。Connorの人並みはずれた歌唱力が発揮されている曲です。まず、この曲はかなり歌い手が自由に歌う部分が多く、おそらく“col cant”(コル・カント:伴奏は主旋律のテンポやリズムに従って)で歌われていると思います。つまり、歌い手が自分の解釈で自由にテンポやリズムを変化させて歌い、伴奏はそれに合わせて演奏をしなければなりません。これだけcol cantの部分が多いと、歌い手の力量がかなり問われます。(*私が歌ったことのある歌曲などでは、col cantはメロディーの1フレーズなどほんの一部分のみ)
 col cantの部分は、たぶん拍も自由になっています(決まった拍子で歌っていないということ)。そうかと思えば、途中3拍子になったりと拍子の変化があります(テンポが急に良くなるところ)。でも、その決まった拍子の中でも、テンポを遅くしてじっくりとメロディーを聞かせたり、トリルを強調させる部分があります。かなり変化に富む曲ということですね。
 そして、Connorの持つ素晴らしいテクニックを駆使しています。今まで何度も書いてきた澄んだ美しい高音やビブラート、トリル、h唱法はもちろんのこと、もう1つConnorの素晴らしいところは、必ずメロディーに抑揚をつけることです。決して単調な曲だからといって、一本調子に歌うことはありません。どんな短いフレーズでも必ずクレッシェンド・デクレッシェンドの山場があり、強調するばかりではなくたまには力を抜いて引いてみたり、一気に歌うのではなく“ため”を入れてみたり…。ただ音程を正確にかわいらしく歌うだけの、アイドル的な少年歌手…というのではなく、一人の声楽家としてのプロ意識が感じられます。

 次に第18曲目。“Art thou warmth in spring”の歌詞の“spring”の部分。springのように無声音で始まり、しかもこの曲のようにアクセント部分を伸ばす場合(スプリーングというように)、“スプ”を音符の前に出して“リ”をその音符の音程にのっけます。つまり1拍目は“リ”で始まり、1拍目の前に“スプ”を言うことになります。厳密に言うと、“スプ”の部分には音程がないことになります。…とは言っても、だいたいはアクセント部分の音と同じ音程で歌うのですが。この場合、そのアクセント部分の音程を正確に、はっきりと歌うことが大切です。この曲だけに限ったことではなく、例えば第13曲目の“throne”の歌詞の部分でも同じです。“th”を前に出して“ro”で音程にのっけています。
 これは特別な歌唱技術ではなく、イタリアやドイツ歌曲を歌う上では当たり前のことですが、なぜ紹介したかと言いますと…この曲では何度も“Art thou warmth in spring”を繰り返し歌うので、“spring”の部分がとても耳に残るのです。しかも何度も歌う中でConnorは、全て同じに歌うのではなくわずかに“ため”を入れたり、“ring”の伸ばし方もある時は<>の山をつけたり、またある時はわずかにビブラートをつけたりなど、微妙に変化させているのが巧妙です。Art thou…の部分も歌うたびにメロディーやトリル、hの入れ方が微妙に変化していて、この部分だけを取り上げて聴いてみても面白いと思います。
 後半“Or art…”の部分からはテンポが上がり、どんどん緊迫した感じになっていきます。特に“Hallelujahs”“never”の繰り返し部分の緊迫感が聴き応えあります。

 そして第19曲目。このアルバムの中で一番好きな曲です。アルバム前半の単調な曲調が中間あたりからだんだんと変化が現れ、直前の第18曲目で緊迫した曲調になりましたが、この第19曲目ではまた落ち着いた雰囲気で、曲調も穏やかで優しい感じになっています。Connorの歌い方も柔らかく優しい歌い方に変わっています。
 この優しい曲調が無条件に好きなのですが(笑)、この曲の良さはやはり最後の“Hallelujah”に尽きるでしょう。その部分を聴くと、本当に心穏やかに癒される感じがします。“lu”から“jah”に移るときにサラッと入れるトリルが好きです。サラッと入れていますが、あの短いわずかな間にトリルを入れることができるのは素晴らしい技術です。
 ちなみに英語発音では“lu”の部分はそのまま“ル”を発音しますが、ラテン語やイタリア語では日本語のようにはっきりとウ行を“ウ”と歌いません。“ル”と“ロ”の間で、どちらかというと“ロ”に近い発音をします。Connorは、この曲ではラテン語発音で歌っているようです。まあ、普段からConnorは英語曲でも“r”を巻き舌で歌ったりしているので、ラテン語の影響を強く受けているのか、そのように習ったのか、またはわざと好んでそう歌っているのか…真意を知りたいところです(笑)。
 もう1つ、この曲でConnorの特徴がよく表れているのは、後半の“Then to thy rest, O my soul…”の部分、“rest”から“O”に移るところ。“re”でクレッシェンドしながらかつビブラートをかけながら伸ばし、“st”から“O”に移る部分ではhを入れて素早く歌い、アクセントをつけてきれいに強調されています。優しい曲調の中にもところどころ強さが表れ、変化を楽しめる曲になっています。

 Connorを知っている人ならたいていこのアルバムは持っていることと思いますが、この記事を読んでまた違った視点から聴いていただけたらと思います(ほん一部の曲しか紹介できず恐縮ですが…)

        


  
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