「Blest be those sweet regions」と装飾音


1789_burrowes-qc.jpg 今回取り上げるのは「装飾音」です。Connorの人並みはずれた装飾テクニックは、John Scott氏からもお墨付きをもらうほど卓越したものです。どの曲でもConnorの熟達した装飾テクニックを聴くことはできますが、その中でも『短い装飾音』を駆使した曲を紹介します。Connorのソロアルバム「A Quiet Conscience」の第12曲目、「Blest be those sweet regions」です。

 まず、装飾音というのは、楽曲の中で主として旋律を飾るためにそえる小さな音符のことで、小音符ではなく特殊な記号で表す場合もあります。
 通例用いられている装飾音は大きく分けて前打音、後打音、モルデントおよびターン、アルペジオ、トリルの5種類があります。装飾音といえばトリル!と思いがちですが、実は様々な種類があるのです。

 さて、「Blest be those sweet regions」の曲中で、Connorの装飾テクニックが凝縮された箇所があります。2分51秒辺りで出てくる“We a ruffled world endure,”というフレーズです。とても短いフレーズですが、“ruffle”“world”の頭にプラルトリラー、“endure”の“dure”に前打音の装飾音を入れています。
 プラルトリラー(pralltriller)とは、モルデント(mordent)が主要音から下2度の音を経て主要音に戻るのに対して、上2度を経るものを言い、転回モルデントとも言います。プラルトリラーは聞き慣れないので、以後転回モルデントと書くことにします。

moedent_i_mordent.jpg  左の楽譜を見てください。楽譜の左がモルデント、右が転回モルデントです。(ドの音符の上についているのが、それぞれを記号で表したものです。)
 つまり、主要音がドであった場合、モルデントは「ドシドー」となり、転回モルデントは「ドレドー」と演奏します。この折れ線のような記号が長くなると、装飾に使う音符が増えます。(ドシドシドーなど)
 前述のフレーズ中の“ruffled”と“world”は、普通に演奏すればそれぞれ「レーミレミファー」と「ミーレドレミー」(ド・レ・ファは#)なのですが、転回モルデントがついたことにより 「レミレーミレミファー」「ミファミーレドレミー」と演奏され、下線部分が転回モルデントとなります。ちなみにモルデントを音符で表すとすれば、主要音の音符にもよりますが、たいていは16分音符や32分音符となり、素早く演奏する必要があります。
 こうして口で言う分には簡単に思えますが、実際に歌うとなるとそう簡単ではありません。前にも書きましたが、ピアノなど音程が定まった楽器であれば演奏しやすいですが、「声」という自分で音程を定めなければいけない楽器で、正確な音程でしかも素早く歌うのは容易ではありません。
 Connorはおそらく「h唱法」を使いながら、しかも巻き舌まで使いながら(!)、正確な音程でサラリと歌いのけています。(あまりにもサラリだったので、前回このアルバムを紹介した時には気付かなかったという失態ぶりです。。

 そして最後に“dure”部分の前打音です。前打音は、主音符の前に小さな音符で示される装飾音です。モルデントが装飾して主要音に戻るのに対して、前打音は装飾音が直接主要音に付くといった感じです。
 “dure”を普通に演奏すれば「レードシー」(レ・ドは#)ですが、前打音が付いたことにより「ミレードシー」となります。もちろん最初の「ミ」が前打音です。
(*ちなみに、音域は違いますが装飾音なしの同じフレーズが2分23秒辺りで先に歌われています。こちらと聞き比べると、より装飾の効果がわかりやすいかと思います。)

 時間にすればわずか5秒ほどの短いフレーズの中ですが、こうして掘り下げてみると奥深いものがあり、Connorの歌唱技術の高さを改めて認識させられます。
 このフレーズ部分の音程も決して低くはなく、むしろpassagio(「passagio」パッサージョ記事参照)にかかる出しづらい音程であると思いますが、Connorはそんなことは微塵も感じさせず、クリアで透き通った歌声を披露しているのもさすがです。
 この記事を読んで興味をもっていただけた方は、ぜひCDを引っ張り出して例のフレーズを聴いていただけたら幸いです。

*途中、楽譜を言葉で書いた部分が読みづらくて申し訳ありません。本当は楽譜で表せたら良いのですが、ソフトが入っていないので…。また、実際に歌われた楽譜を見て書いているわけではありませんので、いつもながらこの記事は私の推測による独自の解釈です。実際と違う部分もあるかと思いますが、その点はご了承ください。



 

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